授賞式中止のお知らせ

2020.4.16更新


2020年6月10日(水)に開催を予定しておりました「第8回(2019年度)後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞」授賞式につきまして、国内で新型コロナウィルス感染症が拡大している状況を踏まえ、受賞者の皆様ならびにご列席者の皆様の安全確保を最優先に考慮し、今年度は開催をやむなく中止とさせていただきましたことをお知らせ申し上げます。何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

-受賞者の声-


第8回(2019年度)後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞
(Kiyoko and Paul Bourdarie-Goto Scientific Prize)
大阪大学大学院 薬学研究科 特任准教授
下條 正仁 殿 (Masahito SHIMOJO, Ph.D.)

対象論文:A gapmer antisense oligonucleotide targeting SRRM4 is a novel therapeutic medicine for lung cancer (Scientific Reports volume 9, Article number: 7618 (2019))

受賞にあたり、ご協力いただいた患者様、共著者及び多くの関係者の皆様、両親、家族に謹んで感謝いたします。数年前に知った「中国で幼い子供が肺がんを発症」というニュースが、私をがんの研究へと導きました。肺がんは、PM2.5等の大気汚染や喫煙等が原因となっていることが指摘されています。環境汚染によって子供たちが肺がんを発症し、辛い生活を強いられているということ、また、成人でも夫婦でがんになるケースが増えているということを知り、肺がんに罹ることへの不安や、子供達の将来への不安について思いを馳せたとき、少しでも明るい希望の光になることができればとの思いから本研究を開始しました。

私たちは、SRRM4が小細胞肺がんで異常発現していること、この分子を小細胞肺がん治療の標的とすることで癌細胞死を誘導できること、及びSRRM4に関連するmiRNAを用いた診断薬の可能性を世界で初めて報告しました。SRRM4は治療抵抗性前立腺がん・乳がんでも発現していることが考えられ、SRRM4を治療のターゲットとした核酸医薬は、小細胞肺がんのみならず、これらのがんの治療薬としても期待されています。当初、私と医師の大学院生で始めた研究が、現在はベンチャー企業など多くの人の協力を得て当初の想像以上に進んでいます。最近、その成果が新聞の記事に取り上げられ、患者様や、ご家族の声を聞くようになり、多くの人が新しい治療薬を心待ちにしていることを実感しています。

小細胞肺がんの治療薬として私たちが開発中の核酸医薬は、動物実験において小細胞肺がんを効果的に縮小しました。今後、この核酸医薬を治療薬にするためには、その安全性と有効性を検証していかなくてはなりません。現在、大阪大学薬学部では、この核酸医薬の実用化に向けて、有効性かつ安全性を高める技術について研究を進めております。近年、核酸医薬は新しいモダリティ(治療手段)として既にいくつかの疾患で治療に使用されていますが、がんの治療薬はまだありません。今後、私たちが見出したこの核酸医薬が、小細胞肺がんに対して、副作用が少なく、効果的な治療薬となることを目指して開発を進めてまいります。また、治療効果を高め、副作用を低減するためには、治療薬の効果が期待できる患者様を選択する必要があるものと私たちは考えております。このため、体内でSRRM4が存在していることを反映する血中miRNAを検出するコンパニオン診断薬の開発も行っています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で世界はとても大変な状況になっています。「診断法があっても治療薬がない」この現状は多くの人が不安になっているところです。一般的に、開発中の治療薬が認可されるまでには、多くの時間と費用が必要です。私たちが見出したこの核酸医薬におきましても、辛い思いをしている患者様、そして何より家族の心配を安らげるためにも、国、製薬会社のご協力のもと1日も早く医療の現場に本研究の成果を届けたいと考えています。

世界が大変な時にこのような名誉ある賞を頂いたことは、実用化に向けての希望の光を私たちに与えてくださり、また後押しいただいているものと改めて感謝申し上げます。

第8回(2019年度)後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞 特別賞
(Kiyoko and Paul Bourdarie-Goto Scientific Prize-Special Award)
東京医科大学 呼吸器・甲状腺外科学分野 助教
工藤 勇人 殿 (Yujin KUDO, M.D., Ph.D.)

対象論文:Suppressed immune microenvironment and repertoire in brain metastases from patients with resected non small cell lung cancer (Annals of Oncology, 2019 Sep 1;30(9):1521-1530)

本研究は、近年、治療効果が期待されている免疫療法に着目し、肺癌脳転移に対する治療の可能性、そして肺癌脳転移の腫瘍内微小環境の解明を行ったトランスレーショナル研究です。多くの肺癌症例で診断時のみならず経過中に脳転移を来たし、予後不良の一因となることが知られています。肺癌脳転移に対する分子標的治療薬の効果については報告が散見されますが、免疫療法の脳転移への効果については、十分な報告がないのが現状です。主任研究員(PI)であるWistuba教授と私の二人で本研究を計画し、私自身が本研究におけるすべての実験・解析に直接関わり、多数の各分野の専門家の研究協力者と協議を重ねて、本研究の成果を報告しました。世界で初めて、肺癌脳転移の腫瘍内免疫微小環境を解明し得たものです。そのメカニズムの解明により、脳転移に対する新規治療薬開発の可能性につながり、特に、メカニズムに着目した腫瘍関連マクロファージを抑制する薬剤の選択が治療の候補になると考えています。多大な時間と労力を費やし、十分にデータの協議を行った信頼の高い結果であると自負しています。今後、脳転移に対するがん免疫療法の臨床応用に発展させていきたいと考えています。