保護中: 確認用 第11回(2022年度)「後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞」受賞者
賞 名 | 第11回(2022年度)後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞 (Kiyoko and Paul Bourdarie-Goto Scientific Prize) |
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対象者 |
![]() 佐治 久 殿 (Hisashi SAJI, M.D., Ph.D.) |
所 属 | 聖マリアンナ医科大学 呼吸器外科 主任教授 呼吸器センター 副センター長 Professor & Chair, Department of Thoracic Surgery, St. Marianna University School of Medicine |
対象論文 | 肺野末梢小型非小細胞肺癌に対する肺葉切除と区域切除の比較試験 (J COG0802/WJOG4607L)多施設共同、 非盲検 、第 3 相、ランダム化、コントロール、非劣性試験 Segmentectomy versus lobectomy in small-sized peripheral non-small-cell lung cancer (JCOG0802/WJOG4607L): a multicentre, open-label, phase 3, randomised, controlled, non-inferiority trial (Lancet. 2022 Apr 23;399(10335):1607-1617.) |
選考理由 (中島 淳 諮問委員長) |
佐治氏らは日本の70施設が参加した多施設共同研究として、臨床病期IA期、最大径2㎝以下の末梢小型非小細胞肺癌に対する術式の検討を行った。前向き無作為割付試験によって従来の標準術式である肺葉切除術と、より切除範囲の小さい区域切除を比較した。区域切除術が肺葉切除術よりも全生存率および術後一秒量が有意に高値であることを示した。本研究成果は早期非小細胞肺癌に対する標準術式が変わるという、世界的に波及する非常にインパクトの高いものであり、審査員全員が本論文を推薦した。 |
受賞者の声 | この度は、名誉ある後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞を頂き、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。肺癌治療に於いて根治を目指すためには早期に見つけて外科治療を行うことである。早期肺癌に対するこれまでの標準手術は腫瘍の存在する肺葉ごと切除して、転移の疑われる所属リンパ節の廓清を加える「肺葉切除+リンパ節廓清術」である。これは1995年、Ginsbergらにより北米で行われたランダム化比較試験LCSG821が報告されて以来行われていた。しかし、90年代後半から特に本邦に於いてCT検診など画像診断技術の進歩により小型早期肺癌が多く発見されてきた。それに伴い癌の根治性を損なわず、肺実質の切除範囲を縮小して低侵襲性を目指した縮小切除(楔状切除、区域切除)が開発されてきた。2022年2023年と本邦と米国から多施設共同第3相比較臨床試験の結果が報告され、本研究がそのメインの一つであり世界的な医学雑誌であるTHE LANCETに2022年4月に掲載された。本試験を含めた4つの臨床試験の結果により肺野末梢小型早期肺癌に対しては根治性を損なわず低侵襲性が期待できる縮小切除(楔状切除、区域切除)が標準手術の一つといて確立された。この確固たるエビデンスにより最新のガイドラインに記載されることになり、手術可能早期肺癌の約4割(本邦)の患者さんに身体に優しい手術の受ける恩恵を得られることになった。これも90年代後半より早期肺癌の治療開発に関わった全世界の全て医師・研究者と協力して下さった数多くの患者さんとそのご家族のご協力のお陰で得られた研究成果であると考えます。今後は縮小切除の適応を拡大したり、より恩恵を得られる対象の選択など様々な追加の臨床試験を計画・遂行して、根治性かつ低侵襲性を期待できる更なる縮小切除(楔状切除・区域切除)の開発を進めていきたいと考えております。最後に故後藤喜代子氏・故ポール・ブルダリ氏のご冥福を心より祈念するとともに改めて科学賞の受賞に御礼申し上げます。 |
賞 名 |
第11回(2022年度)後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞 特別賞 (Kiyoko and Paul Bourdarie-Goto Scientific Prize-Special Award) |
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対象者 |
![]() 一瀬 大志 殿 (Hiroshi ICHISE, Ph.D.) |
所 属 | 米国立アレルギー・感染症研究所 客員研究員 Visiting fellow, National Institute of Allergy and Infectious Diseases, National Institutes of Health |
対象論文 | ナチュラルキラー細胞による転移性単一腫瘍細胞殺傷機構の機能的可視化 Functional visualization of NK cell-mediated killing of metastatic single tumor cells (eLife, 2022; 11, e76269 (1-28)) |
選考理由 (中島 淳 諮問委員長) |
一瀬氏らはNatural killer (NK)細胞の腫瘍細胞に対する監視機構を可視化する技術を用いて、NK細胞の抗腫瘍効果の経時的変化を観察した。腫瘍播種後24時間以後にNK細胞の腫瘍監視・排除効果が阻害されることを発見し、さらにその原因の1つとしてトロンビンが関与しているメカニズムを明らかにした。本研究成果は癌の転移を予防する方策の解明につながる重要なものである。 |
受賞者の声 | この度は、名誉ある後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞(特別賞)を頂き、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。ナチュラルキラー細胞はがん細胞を殺傷する能力を有し、がんの転移を防止する上で重要な役割を担っています。しかし、体の中で「いつ」、「どこで」、「どの程度」がん細胞を殺傷するのか、また「なぜ転移を許してしまうのか」、という問いについては十分理解が進んでいません。一見誰にでも思いつく基本的な疑問ですが、これまでこれらを証明することは技術的に困難でした。我々の研究グループは生体内で1細胞レベルの検出感度を持つ超高感度発光イメージングに、生体内の細胞を直接見ることができる二光子励起顕微鏡、生きた細胞における分子活性をモニターするバイオセンサーを組み合わせ、ナチュラルキラー細胞が肺に転移するがん細胞を殺傷する様子を世界で初めて観察することに成功しました。また、観察を続けている間に、ナチュラルキラー細胞の殺傷能力が徐々に減少していくことを見いだし、凝固系因子の一つがナチュラルキラー細胞の認識の要となっている分子をがん細胞から切り取っていることを明らかにしました。この組織を直接見ることによって得られた数々の知見は、組織を細断しなくてはならないその他の解析手法では決して得られないものであり、今後のがん研究の一助となって欲しいと願っています。今後この「組織を見る」研究をさらに発展させ、がんの理解に貢献していきたいと考えています。 |
賞 名 |
第11回(2022年度)後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞 特別賞 (Kiyoko and Paul Bourdarie-Goto Scientific Prize-Special Award) |
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対象者 |
![]() 小林 祥久 殿 (Yoshihisa KOBAYASHI, M.D., Ph.D. ) |
所 属 | 国立がん研究センター研究所 分子病理分野 研究員 Staff Scientist, Division of Molecular Pathology, National Cancer Center Research Institute |
対象論文 | サイレント変異によるRAS Q61 変異がんの治療標的となる脆弱性の発見 Silent mutations reveal therapeutic vulnerability in RAS Q61 cancers. (Nature 2022; 603(7900):335-342.) |
選考理由 (中島 淳 諮問委員長) |
小林氏らは、サイレント変異が特定のKRAS変異による発癌をきたす機序を明らかにした。さらにRAS遺伝子のスプライシングに対する弱点を標的とした核酸医薬の有効性を実験レベルで示した。KRAS変異は肺癌に限らず多くの癌において関与しており、新しい癌の分子標的治療につながることが期待される。 |
受賞者の声 | この度は特別賞を賜りまして厚くお礼申し上げます。大変光栄に存じます。私は呼吸器外科医として肺がん患者さんの手術・化学療法・緩和ケアまで幅広く従事してきました。主治医として担当した患者さん達の「稀な遺伝子変異にはどの薬が効くか」、「薬が効かなくなった原因は何か」を明らかにすることで、標準治療のさらにその先の治療につながって欲しいという思いから肺がんの研究を始めました。大学院、留学、現在に至るまで多くの素晴らしい先生方からご指導頂きました。本研究は、薬剤耐性の研究を進めていくうちに予想外に発がん遺伝子ファミリーRASの生物学的なスプライシングの弱点を発見し、その弱点をがんが巧妙に回避する仕組みを逆手にとってがんだけを攻撃する新しい治療法を提唱したものです。今後は、本治療の実用化、この生物学的なアプローチの他の遺伝子への応用、若手研究者同士の国際共同研究の発展に向けて精進致します。 |