第7回(2018年度)「後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞」受賞者決定のお知らせ

2019.4.12


この度、第7回(2018年度)「後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞」受賞者が決定いたしましたので、お知らせいたします。

賞 名 後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞
(Kiyoko and Paul Bourdarie-Goto Scientific Prize)
対象者 秋葉 直志 殿 (Tadashi AKIBA, M.D., Ph.D.)
所 属
    学校法人 慈恵大学 理事
    東京慈恵会医科大学附属柏病院 病院長
    東京慈恵会医科大学 大学院医学研究科 呼吸器外科 教授
    Executive Director, The Jikei University
    Chief, The Jikei University Kashiwa Hospital
    Professor, Division of Thoracic Surgery, Department of Surgery, Graduate School of Medicine, The Jikei University
対象論文 ビタミンDサプリメントと非小細胞肺癌の患者生存率:ランダム化二重盲検プラセボ比較試験
Vitamin D Supplementation and Survival of Patients with Non-small Cell Lung Cancer: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial
(Clinical Cancer Research, 2018 Sep 1;24(17):4089-4097)
選考理由
(中島 淳 諮問委員長)
秋葉直志氏は、共著者とともに、非小細胞肺癌患者に対するビタミンDの再発予防の有効性を明らかにするために前向き無作為化二重盲検臨床試験を実施しました。その結果、ビタミンDが血清25(OH)D濃度低値であった早期肺腺癌患者の術後無再発生存率を改善することを示しました。従来の後方視的観察研究では、循環血液中の25(OH) D濃度が低いと発がん及び再発のリスクが高かったということが弱いエビデンスレベルで示されてきましたが、この研究結果はビタミンDのサプリメントが5年無再発生存率を高めるという無作為化比較試験によるエビデンスを示したものであり、これはがんの第1次、第3次予防に役立つ知見であるといえます。ビタミンDは安価で比較的安全であるということも魅力の1つです。
受賞者の声 このような立派な賞を頂いたこと、光栄に思います。共同研究者の浦島教授に感謝致します。慈恵大学の創始者高木兼寛は、ビタミンが発見される前に、ビタミンB1欠乏症である脚気を克服しました。早期肺がん患者さんで、ビタミンDの血清レベルが高いと、低い場合に比べて生存率が高いことが報告されました。しかし、ビタミンDが再発死亡に先立って低下するのか、低ビタミンD血症が原因で生存期間が短縮しているのかの区別がつきません。この点を明らかにするために、我々は肺がんの患者さんを対象にビタミンDを用いた世界初のランダム化二重盲検プラセボ比較試験を実施しました。ビタミンDが不足した早期の肺腺癌の場合に限ると5年生存率を改善していました。最も苦労した点は患者さんの登録でした。このビタミンDサプリと癌のプロジェクトを、既に消化管癌の患者さんに適応し、同様の結果を得ました。次に、頭頸部癌の患者さんにもこのビタミンDプロジェクトを拡大していく予定です。
賞 名 後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞 特別賞
(Kiyoko and Paul Bourdarie-Goto Scientific Prize-Special Award)
対象者 平塚(中村) 佐千枝 殿(Sachie HIRATSUKA-NAKAMURA, M.D., Ph.D.)
所 属 信州大学 医学部 分子医化学 教授
Professor, Department of Biochemistry and Molecular Biology, Shinshu University School of Medicine
対象論文 肝臓で教育されたB220CD11c+NK1.1+細胞は、肺の転移前ニッチ(土壌)を制御する
Hepato-entrained B220+CD11c+NK1.1+cells regulate pre-metastatic niche formation in the lung
(EMBO Molecular Medicine, 2018; 10: e8643)
選考理由
(中島 淳 諮問委員長)
平塚(中村)佐千枝先生は、共著者とともに、生体内細胞追跡法により、肝臓内に存在するナチュラルキラー細胞の一種が癌の微小組織内環境において、癌の転移を抑制することを明らかにしました。これはユニークで新たな発見であり、研究成果は他の臓器、肺癌などにも応用が期待されます。
受賞者の声 癌には転移しやすい臓器があることは、古くから知られていることです。1889年にPagetが提唱した‘seed and soil’の説は、転移しやすい宿主側の土壌(soil)と転移癌細胞(seed)が出会って癌の転移が成立するというもので、宿主側の要因が関与していることを示唆する説です。私たちは2002年に、原発巣の影響により、癌が転移する前に、遠隔臓器に転移土壌を作るという興味深い現象を見出しました。これが転移前土壌(Pre-metastatic soil=Pro-metastatic milieu)です。例えば肺においては、原発巣から血液中に色々な因子が分泌され、遠隔の肺の宿主細胞を刺激して、転移前土壌を形成します。近年、この転移前土壌は癌患者さんの肺においても類似の場所が存在することを明らかにしてきました。転移前土壌は、本来癌を迎え撃つ為の抗転移免疫細胞と、癌の増大をサポートする免疫細胞が混在しますが、次第に癌の転移を後押しする免疫細胞の集団が多くなってしまいます。今回の抗転移免疫細胞が、初めての治療可能な細胞の発見となります。この細胞群は、肝臓で教育された後に肺に移動し、転移前土壌を消失させる機能と、転移癌細胞を攻撃できる機能を持っています。今後の展望としては、ヒトにおいて抗転移免疫細胞を探す、あるいは作出する予定で、将来的にヒトの治療をめざします。