受賞者

第12回(2023年度)「後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞」受賞者決定のお知らせ

2024.4.1

この度、第12回(2023年度)「後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞」の受賞者が決定いたしましたので、お知らせいたします。
選考の結果、今年度は科学賞2名の受賞となりました。(特別賞なし)

賞 名 後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞
(Kiyoko Goto and Paul Bourdarie Scientific Prize)
対象者
田中 謙太郎 殿 (Kentaro TANAKA, M.D., Ph.D.)
所 属 九州大学大学院 医学研究院 臨床医学部門 呼吸器内科学分野 准教授
(2024/4/1現在、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 呼吸器内科学 准教授)
対象論文 進行非小細胞肺癌患者に対するベザフィブラートとニボルマブの併用療法
Combination bezafibrate and nivolumab treatment of patients with advanced non–small cell lung cancer (Science Translational Medicine 2022;14 (675):eabq0021)
選考理由
(中島 淳 諮問委員長)
田中謙太郎氏は共同研究者とともに、高脂血症薬べザフィブラートがミトコンドリア の脂肪酸酸化を改善させる副次的効果を利用し、CD8+キラーT細胞の寿命を延ばすことで、PD-1阻害剤によるがん免疫療法への耐性を克服する革新的な可能性を示す研究を行った。さらに非小細胞肺癌患者を対象とした第一相臨床試験を実施して本治療法の安全性、有効性、および潜在的な臨床的意義を示したことを、諮問委員が評価した。
受賞者の声 この度は、名誉ある後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞を受賞することとなり、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
多くの癌腫において画期的な治療効果をもたらす免疫チェックポイント阻害薬であるPD-1経路阻害剤ですが、癌細胞が獲得する不可避の耐性化克服は喫緊の課題です。受賞者らのグループは免疫チェックポイント阻害薬の治療効果をたかめる方法として、キラーT細胞のエネルギー産生機構に着目し、機能活性化と寿命の延長に必要な代謝機構を司る、ミトコンドリアによるエネルギー産生増加をもたらすことが可能な薬剤の探索を網羅的に行いました。その結果、高脂血症薬であるベザフィブラートを候補薬剤として同定し、ベザフィブラートは免疫チェックポイント阻害薬併用の下でキラーT細胞の機能向上を介して抗腫瘍効果を高めることを前臨床モデルで示しました。
この動物実験における成果をヒトにおいても確認するため、我々九州大学は、京都大学を始めとした国内4大学と共同でニボルマブとベザフィブラートを併用する医師主導の第一相治験を計画し実施いたしました。その結果、ニボルマブ・ベザフィブラート併用治療により、キラーT細胞におけるミトコンドリア代謝関連の遺伝子は増加し、T細胞のミトコンドリアにおける脂肪酸代謝上昇を反映する血漿中の代謝産物として、カルニチンの上昇が併用治療奏効患者において認められました。本併用療法によるEGFR 遺伝子野生型患者さんの無増悪生存期間中央値は7.5か月であり、過去に報告されているニボルマブ単剤治療よりも3倍程度延長しておりました。本治験結果により、前臨床モデルで認められた免疫チェックポイント阻害薬とベザフィブラート併用によるキラーT細胞のエネルギー産生亢進、その結果としてのキラーT細胞の機能増強が、ヒトでも起こることを我々は確認することができました。キラーT細胞の代謝改変を標的とした治療法の報告はこれまでになく、本研究における独創性と考えております。
我々の成果は、進行がんにおける免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強し、耐性化を克服する画期的な新薬臨床開発へとつながる基盤的知見と考えており、免疫療法による癌の根治を達成できるよう引き続き研究を進めてまいります。最後になりますが、貴重な科学賞を創設くださった故後藤喜代子氏・故ポール・ブルダリ氏のご冥福を心より祈念するとともに、改めて科学賞の受賞に御礼申し上げます。
賞 名 後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞
(Kiyoko Goto and Paul Bourdarie Scientific Prize)
対象者
庄司 文裕 殿 (Fumihiro SHOJI, M.D., Ph.D.)
所 属 国立病院機構 九州がんセンター・呼吸器腫瘍科 医長
対象論文 非小細胞肺癌における癌免疫療法奏功症例の腸内細菌叢多様性と特定菌種の同定
Gut microbiota diversity and specific composition during immunotherapy in responders with non-small cell lung cancer (Frontiers in Molecular Bioscience 2022, 9:1040424)
選考理由
(中島 淳 諮問委員長)
庄司文裕氏らは共同研究者とともに、非小細胞肺がん(NSCLC)の免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による治療効果と、腸内細菌の種類や分布との関連を発見した。NSCLC患者におけるICI レスポンダー群と、非レスポンダー群間では腸内細菌叢の構成に明らかな違いを認めた。腸内細菌の多様性と免疫療法への反応との関係を解明するこの研究は、将来のがん免疫治療戦略に新たなバイオマーカーを提供する可能性がある。本分野での継続的な研究の発展性に対して諮問委員がこの論文を評価した。
受賞者の声 私はこれまで肺癌撲滅を目標に基礎・臨床研究を行ってきました。近年は肺癌患者における宿主免疫の意義について研究を継続しています。
肺癌免疫療法治療効果予測因子に関する研究は長らく、腫瘍内PD-L1蛋白発現、遺伝子変異量、マイクロサテライト不安定性といった「腫瘍側」因子に特化されていましたが、いずれも最適なバイオマーカーには至りませんでした。近年、肺腫瘍内浸潤リンパ球や体内細菌叢といった「宿主側」因子が注目されています。特に腸内細菌叢を中心とした体内細菌叢は宿主免疫の一翼を担うとして脚光を浴びており、私の主要な研究テーマの一つです。加えて、腸内細菌叢の菌種組成は人種で大きく異なることが明らかにされており、日本人を対象とした腸内細菌叢研究を早急に実施する必要があると考えました。
今回受賞しました本研究は癌免疫療法にて治療されている日本人肺癌患者における腸内細菌叢を前向きに観察した研究であり、癌免疫療法治療効果と腸内細菌叢の多様性及び日本人特有の腸内細菌叢菌種との関連性を明らかにすることができました。
現在我々は、本研究結果を更に発展させた3つの前向き研究/介入研究を展開・実行しており、こうした基礎・臨床研究結果を世界に継続的に発信していきたいと思います。我々が推し進めている革新的バイオマーカー開発研究やバイオティクス治療研究は新規性の高い画期的且つ発展性を秘めた日本発信の研究であり、今回、その礎となった本研究を伝統ある後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞へと申請させていただきました。
後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金協会の懸賞金は、(1)上記研究で明らかとなった癌免疫療法治療効果予測因子となる腸内細菌叢の簡易検出法(パネル検査)の確立や(2)肺発癌や肺癌悪性度獲得メカニズムと関連性が示唆されている肺内細菌叢と腸内細菌叢との連関(Lung-gut axis)への発展的研究に活用させていただきたいと考えています。

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