第11回(2022年度)科学賞受賞者:佐治久氏(聖マリアンナ医科大学)

「科学の力で癌と向き合い、少しでも身体に優しい治療を創造する」

第11回(2022年度)科学賞受賞(300万円)
聖マリアンナ医科大学 呼吸器外科 主任教授
佐治 久 氏

この科学賞は、後藤喜代子夫人とポール・ブルダリ氏の志と情熱を継承し、肺がんとの闘いにおいて医療・研究分野で優れた業績を上げた方々に贈られます。その受賞はがん研究における卓越した業績と貢献を讃える最高の名誉です。

思えば25年以上も前、大学を卒業する年に肺がんが本邦におけるがん死亡率の第一位となりました。当時、おぼろげに自分の医師としての人生を肺がん治療に捧げ、医師を辞める時に肺がんの死亡率が第一位から下がり、それに少しでも貢献出来ればと思い、単純な私は呼吸器外科医の道を歩んだことを思い出します。

さてがんに対する治療選択はEBM(evidence based medicine)、エビデンスに基づいた治療法が選択されます。現在、ほぼ全てのがん腫に対してガイドラインが作成され標準治療が確立されています。しかし、ガイドラインには過去のことしか書いてありません。より良い治療法を確立するには最終的には多施設共同第3相臨床試験を立案・遂行して新しいエビデンスを構築する必要があります。今回、日本臨床腫瘍研究グループと西日本がん研究機構の2つの臨床試験グループがオールジャパンで結集して、60年以上も前に提唱された標準術式である肺葉切除に比較して、肺野末梢小型早期肺癌に対しては身体に優しい縮小切除(区域切除)が全生存期間で優るという新しいエビデンスを世に発信することが叶いました(Saji H, et al, West Japan Oncology Group and Japan Clinical Oncology Group. Lancet. 2022 Apr 23;399(10335):1607-1617)。

今後もEBMに必要な臨床試験を推進するための活動経費の一部として後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金からいただいた顕彰金を活用させて頂きます。そして少しでも優れた治療を創造(エビデンス構築)し、多くの肺がん患者さんのより良い未来の生活に貢献したいと考えております。

第11回(2022年度)特別賞受賞者:一瀬大志氏(米国立アレルギー・感染症研究所)

「がんを見る研究を次のステージへ」

第11回(2022年度)特別賞受賞(100万円)
米国立アレルギー・感染症研究所 客員研究員
一瀬 大志 氏

私は基礎医学研究者としてトレーニングを受け10年余り、基礎医学研究で社会に貢献したいという思いで研究に励んできました。
私の専門分野は「見る」免疫学です。この「見る」とは、患者さんや実験動物から得られる貴重な標本と最先端の顕微鏡技術を駆使し、体の中で起こっていることを「可視化する」ことを意味します。この「見る」ことで得られる知見から免疫細胞がどのようにがん細胞と戦っているのか、どのように疾患の発生や制御に関わっているのかを明らかにすることが主な研究目的となります。

私はこの研究領域の先進国であるアメリカでその技術を学び、更なる技術開発に注力してきました。今はこの技術を駆使して新たな治療戦略の確立及び、新しい組織学の教材を作ることで、次世代の医学研究に貢献することを目指しています。
昨今の基礎研究は、一つの生命現象を明らかにするために必要な解析がどんどん膨大になり、一つの研究室でカバーすることが難しくなってきました。そのため各国の研究者が共同で研究に取り組むことが当たり前になっています。

今回いただいた顕彰金についても、上記のような国際共同研究を推進するための活動経費として使用させていただき、自身の研究の発展を通じて社会への更なる貢献を目指していきたいと考えています。

第11回(2022年度)特別賞受賞者:小林祥久氏(国立がん研究センター研究所)

「標準治療のその先の新しい治療を目指して」

第11回(2022年度)特別賞受賞(100万円)
国立がん研究センター研究所 分子病理分野 研究員
小林 祥久 氏

私は外科医として肺がん患者さんの手術・化学療法・緩和医療を担当してきました。手術を受けられても残念ながら再発してしまった際は、標準治療では完治できないのが現状です。標準治療で諦めたくない、担当患者さんの稀な遺伝子変異のがんにはどの薬が効くのか、新しい治療法を開発したいという思いから基礎研究を始めました。

今回、全てのがんの中で最も頻度の高い発がん遺伝子ファミリーRASの致命的な弱点を発見しました (Nature 2022)。がんが巧妙にその弱点を守ろうとする機序を解明し、それを逆手にとってがん細胞だけを攻撃する新しい治療法を開発しました。

しかし、実用化にはまだまだ必要な研究が山積です。名誉ある本賞を頂けたことは貴重な研究費としてはもちろんのこと、多くの研究者に本研究を知って頂くきっかけとなり共同研究によって実用化に向けた研究のさらなる加速が期待できますので大変感謝しております。本賞を励みに今後もより一層精進致します。

第10回(2021年度)科学賞受賞者:船井和仁氏(浜松医科大学医学部)

「肺癌を早期に発見するために」

第10回(2021年度)科学賞受賞(350万円)
浜松医科大学医学部外科学第一講座 准教授
船井和仁 氏

私は呼吸器外科医として長年手術による肺癌治療を行ってきました。肺癌手術は開胸手術から胸腔鏡下手術、そして最近ではロボット支援下手術へと確実に進歩しており、それに伴って治療成績も向上しています。しかし局所治療である手術だけでの肺癌の撲滅には限界があります。そこで、私はがん薬物療法専門医の資格を取り全身治療である抗がん剤治療を加えました。近年肺癌の薬物療法では分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤が次々に発売され目覚ましい進歩を遂げています。しかし肺癌の治療成績はまだまだ満足できるものではありません。早期発見が肺癌を治すための重要なカギであり、早期発見のためのスクリーニング法を確立する研究の重要性を強く感じました。

そこで本研究は侵襲なく採取できる尿を用いて肺癌検出のためのバイオマーカーを探索することからスタートし、現在までに、O-アミノ馬尿酸が肺癌の強力な予測バイオマーカーとなることを発見しました。今後は複数の蛍光尿中代謝物を組み合わせたより精度の高いスクリーニング法の確立に向けて、今回頂いた顕彰金を研究活動経費として使用させていただく予定です。

最後に今回このような名誉ある後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞をいただき、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

第10回(2021年度)特別賞受賞者:箱崎泰貴氏(がん・感染症センター東京都立駒込病院)

「がん治療のさらなる進歩を目指して」

第10回(2021年度)特別賞受賞(150万円)
がん・感染症センター東京都立駒込病院 呼吸器内科 医員
箱崎泰貴 氏

近年、がんに対する治療法は目覚ましく進歩しています。中でも、がん免疫療法や分子標的治療は、がんに苦しむ患者さんの治療を劇的に変えました。私は、肺がんの治療を専門とする腫瘍内科医ですが、こうした新しい治療法の恩恵を受ける患者さんの診療を行う機会も多く、治療開発に関わって来られた患者さんのご協力、研究者の努力には頭が上がりません。しかし、がんは依然として手強い病気であり、より良い治療法の開発を目指して、研究をさらに前に進める必要があります。また、今ある治療法を最大限に活用するための臨床研究も欠かすことが出来ません。

現代の研究においては、新しい解析技術を上手く取り込んでいくことが重要です。アイディアを形にする技術の進歩がある一方で、研究にかかる費用も無視できない要素になっています。また、海外の研究者との協力も欠かせませんが、国際的な協力にはどうしてもお金がかかる場面が出てきます。しかし、実績をこれから積み上げていく若手の研究者にとって、研究費の獲得は大きなハードルとなっています。また、国や企業から頂く研究費には使用目的や期間に制約があることが多く、長期的な視点に立った挑戦的な研究には向いていない面も少なくありません。そうした中、後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金協会の顕彰金は、自由度がとても高く、研究者にとって非常にありがたいサポートとなっています。

篤志家の皆さんのご寄附の上に成り立つ本顕彰金を、より良い治療法の開発、がん撲滅を目指した研究活動に活用していければと考えています。

第9回(2020年度)科学賞受賞者:吉田健一氏(ウェルカム・サンガー研究所)

「がん研究に関する研究環境について」

第9回(2020年度)科学賞受賞(350万円)
ウェルカム・サンガー研究所/博士研究員
吉田 健一 氏

私は現在英国でがんの研究を行っていますが、日本との研究環境の違いの一つとして、研究資金の違いがあります。私の研究はCancer research UK(CRUK)というがん研究チャリティ団体から資金を受けていますが、CRUKは政府からの資金援助を受けておらず、一般の寄附金などにより運営されています。CRUKは2019年には4.68億ポンド(約700億円)もの研究支援を行ったとのことです。日本の大学では国からの研究費が大部分を占めていましたので、英国の科学研究の強さの一因ではないかと感じました。私はこの度、後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金協会から賞をいただくことができましたが、財団はがん(特に肺がん)の撲滅や煙草による健康被害防止に関わる研究を支援しており、今回評価していただけたことは今後も研究を続けていく上で大変励みになりました。いただいた顕彰金は今後日本国内における研究を共同研究者とともに推進するための活動経費として使用させていただきたいと考えております。がんがなぜ起こるのかを研究することは予防、早期発見、治療などの観点から重要なことですが、まだまだ未解決な点が多いのが現状です。寄附という形で日本のがんの研究をサポートしていただければましたら幸いです。

第9回(2020年度)特別賞受賞者:茶本健司氏(京都大学大学院) 

「がん免疫治療によるがん撲滅を目指して」

第9回(2020年度)特別賞受賞(150万円)
京都大学大学院医学研究科免疫ゲノム医学・特定准教授
茶本 健司 氏

10年前と比べ、がん患者さんの生存率は良くなっています。その理由の一つにPD-1抗体を中心とした「がん免疫治療法」の発展が考えられます。現在ではPD-1抗体を用いたがん免疫治療が最前線の治療法となっており、肺癌領域においても第一選択肢となっております。しかし、それでもまだ奏功率が30-40%程度(併用治療を含む)であり、不応答性患者も多く存在します。完全ながんの撲滅のためには、PD-1抗体治療への不応答性メカニズムの解析や、併用治療の開発、効果予測バイオマーカーの研究等まだまだ多くの研究が必要です。それらのがん研究を動物実験や臨床検体を用いて行うためには非常に多くの研究費が必要であり、現状、主に政府の予算を用いて行うしかありません。しかし、政府の予算は使用目的の制限が非常に厳しく、実際のがん研究に必要なものであっても購入できないものや、患者リクルートのための実費も支払えない場合もあります。後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金の顕彰金は非常に自由度が高い上に、使用期限の制限がないため、通常の予算では難しい研究を計画することも可能です。今後、がん研究において必要な時に使用させていただき、実臨床に活かせるようながん研究をさらに発展させていきたいと考えております。

第7回(2018年度)特別賞受賞者:平塚(中村)佐千枝氏(信州大学)

「がん研究に関する研究環境の充実」

第7回(2018年度)特別賞受賞(150万円)
信州大学 平塚(中村)佐千枝 氏

長生きの時代に、がんはとても身近な病気です。そのため、多くの人が自分に起こるかもしれない事として関心を持っています。「がんの研究 って、どんなことをするのですか?」と時々質問もいただきます。がんに打ち勝つためには、がんを深く知ることから始まり、治療方法に結びつくように研究していきます。がんの成り立ちは非常に複雑ですが、医学、理学、工学の連携で、たいへん多くのことが分かってきました。私の場合は、がんの転移の研究をしていますので、患者さんからの組織を調べたり、貴重な動物を使ったりします。昔よりも多方面から調べる必要がでてきて、研究には費用がかかります。国や財団に研究の重要性を知っていただき、研究費のサポートをいただくことも常に必要です。研究によって、かかる費用は違いますが、1年に1000万くらいかかります。期間は10年単位でかかります。研究費がとれない時は研究を縮小し、とれた時は、研究は大きく進みます。国や財団からの研究費は、なくてはならないものですが、使う期間が決まっています。この度の顕彰金は使用期限がなく、このような研究費はたいへん貴重です。なぜならば、研究費がどうしても取れなかったときに、そしてこの研究ができたら大きく前進できる可能性があるときにも、使用できるからです。私はポールブルダリ氏のがん撲滅への思いと応援を特別なものと思っております。顕彰金はお守りとして、ここ1番のときに使わせていただくつもりでおります。

第6回(2017年度)科学賞受賞者:田淵貴大氏(大阪国際がんセンター)

「一人でも多くの命を救うために」

第6回(2017年度)科学賞受賞(350万円)
大阪国際がんセンター 田淵貴大 氏

私は血液内科医としてキャリアをスタートし、現在は公衆衛生学・疫学を専門としてがん研究を実施しています。血液内科の現場ではエビデンスに基づく医療を実践することを学んだ一方、予防医学の実践が不十分だと感じていました。一人でも多くの命を救うためには、病気になってしまった人に対する医療・治療だけでなく、病気にならないように予防することも必要です。がんで死亡する人の39%、肺がんで死亡する人の69%はタバコが原因だとわかっているのです(Katanoda K, et al. J Epidemiol 18; 251-264, 2008)。そこで、私はがん対策のなかでも特にタバコ対策に取り組んできました。あらゆる統計資料を活用し、タバコの値上げや屋内禁煙化などの政策を評価し、研究成果をメディアを通して広く周知しています(研究成果については田淵貴大のresearchmap等WEBサイトを参照のこと)。独自のインターネット調査研究プロジェクトとして、日本の新型タバコ問題に注目したJASTIS(Japan Society and New Tobacco Internet Survey)研究および新型コロナウイルス感染症問題に注目したJACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究を立ち上げ、多くの共同研究者とともにがん対策やタバコ対策も含めた公衆衛生課題を解決するための研究に取り組んでいます(写真:オンラインミーティングの様子)。 タバコ対策などのがん対策研究を多くの研究協力者とともに推進するための活動経費として後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金からいただいた顕彰金を使用させていただいています。公衆衛生学や疫学の専門技術を駆使して、データを分析し、対策の効果を評価し、今後のより良い社会や生活のかたちを模索していく所存です。そうして、人々の健康と幸福に貢献したいと考えています。

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