第13回(2024年度)科学賞受賞者:坪井正博氏(国立がん研究センター東病院 )

「個別化医療を見据えて」

第13回(2024年度)科学賞受賞(350万円)
国立がん研究センター東病院 呼吸器外科 科長
坪井 正博 氏

肺がんという難病を克服するために、多くの研究者や、医療従事者の皆様が、日々、絶え間ない努力を重ねています。

私も、これまでに一人の外科医として患者さんの命を守り、そしてevidence based medicineに必要な臨床試験の推進に力を注いできました。

今回の研究では、手術で完全にとり切れた肺癌患者さんの中でEGFRという遺伝子に異常のある方々に対して、オシメルチニブという薬剤を術後に飲んでいただくことで再発や死亡するまでの期間を延ばすばかりでなく、より長く生きることにも貢献できることを、世界で初めて証明することが出来ました。

今回の研究は企業がサポートしてくれましたが、一般に多施設共同研究には莫大な費用がかかります。国や財団に研究の重要性を知っていただき、研究費のサポートをいただくことも常に必要です。研究によって、かかる費用は違いますが、1年に少なくとも1500万くらい、10年単位でかかります。多施設共同研究の活動を推進するための経費の一部として後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金協会からいただいた顕彰金をありがたく利用させていただいています。

多くの肺がん患者さんが治癒を目指し、長く、健やかな生活を迎えることが出来るように、個々の患者さんに合った新たな術前、術後の補助療法の確立を目指して研究を続けてまいります。
 

第13回(2024年度)特別賞受賞者:鵜飼知嵩氏(ハーバード医科大学)

「若いがん患者さんを一人でも減らすために」

第13回(2024年度)科学賞 特別賞 受賞(150万円)
ハーバード医科大学 ブリガムアンドウィメンズ病院
講師 ハーバード公衆衛生大学院 デパートメントアソシエイト
鵜飼 知嵩 氏

私は血液・腫瘍内科医としてキャリアをスタートさせ、地域の基幹病院で多くの若いがん患者さんの診療に携わってきました。

その中で、若いがん患者は、大きな精神的ストレス、長期的な合併症、経済的な負担など、多くの問題を抱えていることを知りました。

現在はがん研究者として、若いがん患者さんを一人でも多く減らしたいという思いで研究を行っています。今回の受賞論文のテーマである若年発症がんは、一般的に50歳以下で発症する成人のがんと定義されています。私達の研究を含む最近の研究結果から、大腸がん、乳がん、膵臓がん、腎臓がんなどの多くの若年発症がんが世界中で増加していることが明らかになってきていますが、その原因は未だによく分かっていません。

1950年代半ばから変化している様々な生活習慣や環境要因が関与していると考えられていますが、その原因を突き止めるためには様々な分野の専門家による国際的な共同研究が必要不可欠です。ポールブルダリ氏のがん撲滅 への思いを真摯に受け止め、世界中のがん患者さん、特に若いがん患者さんを一人でも減らすために、様々な分野の架け橋となって、多くの研究を推進していきたいと思っています。

第12回(2023年度)科学賞受賞者:庄司文裕氏(国立病院機構九州がんセンター)

「肺がん撲滅を目指して」

第12回(2023年度)科学賞受賞(250万円)
国立病院機構 九州がんセンター・呼吸器腫瘍科 医長
庄司 文裕 氏

私は呼吸器外科医であり、日々、肺がん撲滅を目指して臨床・研究に取り組んでいます。

私が所属しております九州がんセンター呼吸器腫瘍科は内科・外科を区別することなく総合的に診療にあたっている全国的にも珍しい診療科です。このシステムで、個々の患者さんに迅速な診断を行い、手術療法、化学療法、放射線療法あるいはこれらの組み合わせによる治療を行いながら、多くの臨床試験や治験にも参加し、加えて当科発信の研究も行っています。

本邦では1年に12万人を超える方が新たに肺がんと診断される一方で年間7万5千人を超える方が肺がんによって命を落とされており、いまだ満足できる治療成績ではありません。

近年、がん免疫療法が新たな肺がん治療法としてその地位を確立しましたが、その治療効果は患者さんの腸内環境によって左右されることが明らかになってきました。現在、私たちは腸内細菌に着目したオリジナリティの高い研究を行っており、肺がん患者さんの生存向上に繋がるものと期待しています。

こうした新しい研究を推進していくために後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金からいただきました顕彰金を使用させていただき、得られた研究成果を肺がん患者さんへ還元していきたいと思います。

第12回(2023年度)科学賞受賞者:田中謙太郎氏(九州大学大学院)

「財団の存在~肺癌を克服するために~」

第12回(2023年度)科学賞受賞(250万円)
九州大学大学院 医学研究院 臨床医学部門
呼吸器内科学分野 准教授
田中 謙太郎 氏

私が医師になった2000年頃、進行期肺癌に対する薬物療法の効果は極めて限定的でした。専門医の仕事とは、「いかに亡くなるのか」を科学的に説明することであるという強烈な印象が今も焼き付いています。患者さんと薬物治療の選択を議論できる状況に変えたいという思いから、私は患者さんと向き合いつつ、肺癌の基礎・臨床研究を継続して参りました。

過去20年間、肺癌の薬物療法は分子標的薬と免疫療法薬により革命的に変化しました。しかしながら、肺癌薬物療法は未だ多くの課題を抱え、発展のスタート地点に漸く立てた段階にすぎません。

私は、免疫学の視点に基づく研究手法を用いて課題解決に取り組んでいます。科学賞を頂いた研究は、免疫療法の耐性機序であるキラーT細胞の疲弊化を、脂質異常症薬であるベザフィブラートにより克服する新規戦略を示したものです。今後も基礎研究と共に、エビデンスレベルの高い、患者さんに還元可能な成果を出せるよう努力いたします。

ポール・ブルダリ氏が、病の奥様を傍で見られた際に抱かれた感情は、私が医師になった当時の思いに近いと拝察します。本財団が、癌に苦しむ患者さん・ご家族、そして癌研究者の心の支えとなるよう、多くの方々の貴重な寄附を得て、益々発展されることを心より祈念しております。

なった2000年頃、進行期肺癌に対する薬物療法の効果は極めて限定的でした。専門医の仕事とは、「いかに亡くなるのか」を科学的に説明することであるという強烈な印象が今も焼き付いています。患者さんと薬物治療の選択を議論できる状況に変えたいという思いから、私は患者さんと向き合いつつ、肺癌の基礎・臨床研究を継続して参りました。

過去20年間、肺癌の薬物療法は分子標的薬と免疫療法薬により革命的に変化しました。しかしながら、肺癌薬物療法は未だ多くの課題を抱え、発展のスタート地点に漸く立てた段階にすぎません。

私は、免疫学の視点に基づく研究手法を用いて課題解決に取り組んでいます。科学賞を頂いた研究は、免疫療法の耐性機序であるキラーT細胞の疲弊化を、脂質異常症薬であるベザフィブラートにより克服する新規戦略を示したものです。今後も基礎研究と共に、エビデンスレベルの高い、患者さんに還元可能な成果を出せるよう努力いたします。

ポール・ブルダリ氏が、病の奥様を傍で見られた際に抱かれた感情は、私が医師になった当時の思いに近いと拝察します。本財団が、癌に苦しむ患者さん・ご家族、そして癌研究者の心の支えとなるよう、多くの方々の貴重な寄附を得て、益々発展されることを心より祈念しております。

第11回(2022年度)科学賞受賞者:佐治久氏(聖マリアンナ医科大学)

「科学の力で癌と向き合い、少しでも身体に優しい治療を創造する」

第11回(2022年度)科学賞受賞(300万円)
聖マリアンナ医科大学 呼吸器外科 主任教授
佐治 久 氏

この科学賞は、後藤喜代子夫人とポール・ブルダリ氏の志と情熱を継承し、肺がんとの闘いにおいて医療・研究分野で優れた業績を上げた方々に贈られます。その受賞はがん研究における卓越した業績と貢献を讃える最高の名誉です。

思えば25年以上も前、大学を卒業する年に肺がんが本邦におけるがん死亡率の第一位となりました。当時、おぼろげに自分の医師としての人生を肺がん治療に捧げ、医師を辞める時に肺がんの死亡率が第一位から下がり、それに少しでも貢献出来ればと思い、単純な私は呼吸器外科医の道を歩んだことを思い出します。

さてがんに対する治療選択はEBM(evidence based medicine)、エビデンスに基づいた治療法が選択されます。現在、ほぼ全てのがん腫に対してガイドラインが作成され標準治療が確立されています。しかし、ガイドラインには過去のことしか書いてありません。より良い治療法を確立するには最終的には多施設共同第3相臨床試験を立案・遂行して新しいエビデンスを構築する必要があります。今回、日本臨床腫瘍研究グループと西日本がん研究機構の2つの臨床試験グループがオールジャパンで結集して、60年以上も前に提唱された標準術式である肺葉切除に比較して、肺野末梢小型早期肺癌に対しては身体に優しい縮小切除(区域切除)が全生存期間で優るという新しいエビデンスを世に発信することが叶いました(Saji H, et al, West Japan Oncology Group and Japan Clinical Oncology Group. Lancet. 2022 Apr 23;399(10335):1607-1617)。

今後もEBMに必要な臨床試験を推進するための活動経費の一部として後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金からいただいた顕彰金を活用させて頂きます。そして少しでも優れた治療を創造(エビデンス構築)し、多くの肺がん患者さんのより良い未来の生活に貢献したいと考えております。

第11回(2022年度)特別賞受賞者:一瀬大志氏(米国立アレルギー・感染症研究所)

「がんを見る研究を次のステージへ」

第11回(2022年度)特別賞受賞(100万円)
米国立アレルギー・感染症研究所 客員研究員
一瀬 大志 氏

私は基礎医学研究者としてトレーニングを受け10年余り、基礎医学研究で社会に貢献したいという思いで研究に励んできました。
私の専門分野は「見る」免疫学です。この「見る」とは、患者さんや実験動物から得られる貴重な標本と最先端の顕微鏡技術を駆使し、体の中で起こっていることを「可視化する」ことを意味します。この「見る」ことで得られる知見から免疫細胞がどのようにがん細胞と戦っているのか、どのように疾患の発生や制御に関わっているのかを明らかにすることが主な研究目的となります。

私はこの研究領域の先進国であるアメリカでその技術を学び、更なる技術開発に注力してきました。今はこの技術を駆使して新たな治療戦略の確立及び、新しい組織学の教材を作ることで、次世代の医学研究に貢献することを目指しています。
昨今の基礎研究は、一つの生命現象を明らかにするために必要な解析がどんどん膨大になり、一つの研究室でカバーすることが難しくなってきました。そのため各国の研究者が共同で研究に取り組むことが当たり前になっています。

今回いただいた顕彰金についても、上記のような国際共同研究を推進するための活動経費として使用させていただき、自身の研究の発展を通じて社会への更なる貢献を目指していきたいと考えています。

第11回(2022年度)特別賞受賞者:小林祥久氏(国立がん研究センター研究所)

「標準治療のその先の新しい治療を目指して」

第11回(2022年度)特別賞受賞(100万円)
国立がん研究センター研究所 分子病理分野 研究員
小林 祥久 氏

私は外科医として肺がん患者さんの手術・化学療法・緩和医療を担当してきました。手術を受けられても残念ながら再発してしまった際は、標準治療では完治できないのが現状です。標準治療で諦めたくない、担当患者さんの稀な遺伝子変異のがんにはどの薬が効くのか、新しい治療法を開発したいという思いから基礎研究を始めました。

今回、全てのがんの中で最も頻度の高い発がん遺伝子ファミリーRASの致命的な弱点を発見しました (Nature 2022)。がんが巧妙にその弱点を守ろうとする機序を解明し、それを逆手にとってがん細胞だけを攻撃する新しい治療法を開発しました。

しかし、実用化にはまだまだ必要な研究が山積です。名誉ある本賞を頂けたことは貴重な研究費としてはもちろんのこと、多くの研究者に本研究を知って頂くきっかけとなり共同研究によって実用化に向けた研究のさらなる加速が期待できますので大変感謝しております。本賞を励みに今後もより一層精進致します。

第10回(2021年度)科学賞受賞者:船井和仁氏(浜松医科大学医学部)

「肺癌を早期に発見するために」

第10回(2021年度)科学賞受賞(350万円)
浜松医科大学医学部外科学第一講座 准教授
船井和仁 氏

私は呼吸器外科医として長年手術による肺癌治療を行ってきました。肺癌手術は開胸手術から胸腔鏡下手術、そして最近ではロボット支援下手術へと確実に進歩しており、それに伴って治療成績も向上しています。しかし局所治療である手術だけでの肺癌の撲滅には限界があります。そこで、私はがん薬物療法専門医の資格を取り全身治療である抗がん剤治療を加えました。近年肺癌の薬物療法では分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤が次々に発売され目覚ましい進歩を遂げています。しかし肺癌の治療成績はまだまだ満足できるものではありません。早期発見が肺癌を治すための重要なカギであり、早期発見のためのスクリーニング法を確立する研究の重要性を強く感じました。

そこで本研究は侵襲なく採取できる尿を用いて肺癌検出のためのバイオマーカーを探索することからスタートし、現在までに、O-アミノ馬尿酸が肺癌の強力な予測バイオマーカーとなることを発見しました。今後は複数の蛍光尿中代謝物を組み合わせたより精度の高いスクリーニング法の確立に向けて、今回頂いた顕彰金を研究活動経費として使用させていただく予定です。

最後に今回このような名誉ある後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞をいただき、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

第10回(2021年度)特別賞受賞者:箱崎泰貴氏(がん・感染症センター東京都立駒込病院)

「がん治療のさらなる進歩を目指して」

第10回(2021年度)特別賞受賞(150万円)
がん・感染症センター東京都立駒込病院 呼吸器内科 医員
箱崎泰貴 氏

近年、がんに対する治療法は目覚ましく進歩しています。中でも、がん免疫療法や分子標的治療は、がんに苦しむ患者さんの治療を劇的に変えました。私は、肺がんの治療を専門とする腫瘍内科医ですが、こうした新しい治療法の恩恵を受ける患者さんの診療を行う機会も多く、治療開発に関わって来られた患者さんのご協力、研究者の努力には頭が上がりません。しかし、がんは依然として手強い病気であり、より良い治療法の開発を目指して、研究をさらに前に進める必要があります。また、今ある治療法を最大限に活用するための臨床研究も欠かすことが出来ません。

現代の研究においては、新しい解析技術を上手く取り込んでいくことが重要です。アイディアを形にする技術の進歩がある一方で、研究にかかる費用も無視できない要素になっています。また、海外の研究者との協力も欠かせませんが、国際的な協力にはどうしてもお金がかかる場面が出てきます。しかし、実績をこれから積み上げていく若手の研究者にとって、研究費の獲得は大きなハードルとなっています。また、国や企業から頂く研究費には使用目的や期間に制約があることが多く、長期的な視点に立った挑戦的な研究には向いていない面も少なくありません。そうした中、後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金協会の顕彰金は、自由度がとても高く、研究者にとって非常にありがたいサポートとなっています。

篤志家の皆さんのご寄附の上に成り立つ本顕彰金を、より良い治療法の開発、がん撲滅を目指した研究活動に活用していければと考えています。

第9回(2020年度)科学賞受賞者:吉田健一氏(ウェルカム・サンガー研究所)

「がん研究に関する研究環境について」

第9回(2020年度)科学賞受賞(350万円)
ウェルカム・サンガー研究所/博士研究員
吉田 健一 氏

私は現在英国でがんの研究を行っていますが、日本との研究環境の違いの一つとして、研究資金の違いがあります。私の研究はCancer research UK(CRUK)というがん研究チャリティ団体から資金を受けていますが、CRUKは政府からの資金援助を受けておらず、一般の寄附金などにより運営されています。CRUKは2019年には4.68億ポンド(約700億円)もの研究支援を行ったとのことです。日本の大学では国からの研究費が大部分を占めていましたので、英国の科学研究の強さの一因ではないかと感じました。私はこの度、後藤喜代子・ポールブルダリ癌基金協会から賞をいただくことができましたが、財団はがん(特に肺がん)の撲滅や煙草による健康被害防止に関わる研究を支援しており、今回評価していただけたことは今後も研究を続けていく上で大変励みになりました。いただいた顕彰金は今後日本国内における研究を共同研究者とともに推進するための活動経費として使用させていただきたいと考えております。がんがなぜ起こるのかを研究することは予防、早期発見、治療などの観点から重要なことですが、まだまだ未解決な点が多いのが現状です。寄附という形で日本のがんの研究をサポートしていただければましたら幸いです。

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