授賞式

第9回(2020年度)「後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞」授賞式 中止のお知らせ

賞 名 第9回(2020年度)後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞
(Kiyoko and Paul Bourdarie-Goto Scientific Prize)
対象者
吉田 健一 殿 (Kenichi YOSHIDA, M.D., Ph.D.)
所 属 ウェルカム・サンガー研究所/博士研究員
Wellcome Sanger Institute / Postdoctoral fellow
対象論文 Tobacco smoking and somatic mutations in human bronchial epithelium (Nature. 2020;578;266-272.)
選考理由
(中島 淳 諮問委員長)
吉田博士と共同研究者は、ヒトの気管支1細胞の培養コロニーから全ゲノムシークェンシグを行い、喫煙によって正常な気管支上皮細胞に遺伝子突然変異が増加することを発見しました。 この結果は、喫煙関連肺がんの病因に対する理解のため、また、将来的にリスク予測および早期診断への応用のために有用な情報となります。 さらに、吉田博士らは、このゲノム異常の蓄積が禁煙後に回復する可能性があることを示唆しました。 以上の発見はユニークなものであり、禁煙運動にも貢献すると思われます。
受賞者の声 まず、ポール・ブルダリ様のご逝去の報に接し、心から哀悼の意を表します。この度は名誉ある賞をいただき、財団の関係者の皆様および本研究を支えていただいた共著者の方々に感謝申し上げます。
従来から、肺癌においては喫煙に起因すると考えられる遺伝子異常が見られることが知られていましたが、がんを発症する以前の正常気管支上皮細胞において喫煙によりどのようなゲノム異常が起こっているかについては明らかになっていませんでした。そこで、本研究では正常な気管支上皮細胞におけるゲノム異常を詳細に解析することを目的としました。
結果として、正常な気管支上皮細胞においても喫煙を原因とする遺伝子変異が獲得されており、また肺癌の発症に直接つながると考えられるドライバー変異も喫煙により増加していることがわかりました。一方で、前喫煙者(喫煙歴があるが、禁煙していた人)では遺伝子変異の数が非喫煙者の数に近い、正常に近い細胞も喫煙者に比べて高頻度にみられ、禁煙による肺癌発症のリスクの低下と関係している可能性が考えられました。 本研究は煙草の健康被害を強調するとともに、禁煙の重要性を示し、これらのメッセージは将来的な肺癌撲滅へつながることが期待されます。本研究の成果をもとに、今後さらに肺癌の早期発見や将来的な発症予測につながるような研究を進めていきたいと考えております。
賞 名 第9回(2020年度)後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞 特別賞
(Kiyoko and Paul Bourdarie-Goto Scientific Prize-Special Award)
対象者
茶本 健司 殿 (Kenji CHAMOTO, Ph.D.)
所 属 京都大学大学院医学研究科免疫ゲノム医学・特定准教授
(Department of Immunology and Genomic Medicine Kyoto University Graduate School of Medicine / Associate professor)
対象論文 宿主由来免疫代謝バイオマーカーの組み合わせによるPD-1 阻害がん免疫治療の効果予測
Combination of host immune metabolic biomarkers for the PD-1 blockade cancer immunotherapy.
(JCI Insight. 2020 Jan 30; 5(2): e133501.Published online 2020 Jan 30.)
選考理由
(中島 淳 諮問委員長)
茶本博士と共同研究者は、Programmed Cell Death Ligand 1 (PD-L1)阻害剤による免疫療法における新しい代謝バイオマーカーを示し、細胞腫瘍免疫とT細胞エネルギー代謝との関係を明らかにしました。 これは、将来のがん免疫療法の発展に貢献するユニークな基礎研究です。
受賞者の声 この度は第9回後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞(特別賞)を頂き、心より感謝申し上げます。私はこれまで約20年間、「免疫」で「がん」を治療する「がん免疫研究」に携わってきました。約10年前までがん免疫治療は、眉唾物と捉えられており、その重要性を注目されませんでした。しかしPD-1阻害抗体治療の発見により、現在ではがん免疫治療ががん治療の最前線の治療法となっております。PD-1阻害抗体治療は肺癌領域においても第一選択肢となっておりますが、それでもまだ奏功率が30-40%程度(併用治療を含む)であり、効く患者と効かない患者を見分けるバイオマーカーを同定する必要があります。がん免疫反応にはがん側と免疫側の多くの因子が複合的に関与しており、バイオマーカーも単一ではなく、複数を組み合わせることが必要でした。この研究論文を評価していただき大変光栄に存じます。今後は我々の発見したマーカーの生物学的意義を明確にし、実臨床で使えるようさらに発展させていきたいと考えております。

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